2009年4月29日水曜日

「食糧危機をあおってはいけない」のレビュー

進学して早一ヶ月。
昨年以前に比べて一気にタスクが増えた。
またそれを一つ一つこなしていくところに
少しずつ快感を覚え始めている。

今日はネットで話題の一冊、
「食糧危機をあおってはいけない」の簡単なレビューをさせていただこうかと。
読み終えてから1週間が過ぎてしまったので
少し熱が覚めてしまった感がある。

そういえば先週、大学の図書館のバイトをしているときの
相方さん♂が、なんとこの本の著者の研究室に所属しているとのこと。
思いがけない出会いがこんなところに。
この本の著者の川島先生はもともと工学系研究者であったが、
現在は環境経済学者としてご活躍されているということ。
この方はその道ではアウトロー、一匹狼として有名らしい。
うーむ、まさに私にとっての理想の研究者像。
非常にあこがれてしまう。

というわけで簡単ではあるが本書の要点をまとめてみる。

・世界には化学肥料による食糧増産の余地がある土地が大量に余っている

・世界中に富裕層になるにつれて牛肉消費量が増えると言われているが、
 文化的にアジアやイスラムの諸国の食事がアメリカナイズされることはありえない

・人口爆発による食料需要量の必然的増加が言われているが、
 タイなどの国が出生率2を下回り始めたこと、
 アジア諸国における女性の社会進出の傾向が出始めてきていることを考えると
 国連が予測しているような人口爆発が実際に起こるとは考えにくい

・食糧危機説は定期的に持ちあがっているが(石油危機のときなど)、
 これまでに予測されたような世界的危機に陥ったことはなかった

・中国の穀物輸入量がぞうだいしており、
 世界の穀物市場から穀物量が減っているように感ぜられるが、
 実際には中国の輸入増大と同時にブラジルの生産量の増産が起こっている

・先進国の農地面積が増大しない背景には生産過剰という問題がある
 生産過剰になると農家は豊作貧乏になってしまう

・アメリカ発のバイオエタノール戦略によって穀物価格が上昇し、
 需給のバランスが崩れたかのように思われるが、
 実際には原因は投資家による先物取引への投機マネーである。
 さらに、バイオエタノール生産に必要な穀物の量は
 アメリカの休耕地だけで十分対応することができる

とりあえず世間で叫ばれている食糧危機説の根拠となる言説と、
それに対する筆者の意見を並べるとこのようになる。
根拠となるデータがいろいろと示されているので非常に説得力があった。
食糧危機というのは食糧を買うお金がないことが問題なのだから
結局は政治・経済問題に帰着されることがわかったというのが私にとっての一番の収穫かな。

あとショッキングだったのがレスターブラウン批判の部分。
ちなみにレスターブラウンは言わずと知れた、環境ジャーナリストの第一人者。
私は学部3年生のとき、彼の著書を2冊ほど購入して読み、
統計データをもとにした説得力のある彼の自説に心酔し、
将来的な食糧危機と環境危機を信じてしまった。
しかしこの著書を読んで初めて知ったが、
レスターブラウンは科学者ではなく、ジャーナリストである。
科学者の皮をかぶったアジテーターだったのだ。
盲目的に彼の自説を信じてしまった自分の勉強不足を痛感した。

最後にひとつ。

 世界的食料不足を心配しているのは世界中で日本人だけ

この著書の中で一番強く印象に残った一文である。