2011年4月4日月曜日

私も川島みなみのように真摯さについて考えてみた


最近、真摯さについて色々と考えることがあったのでここに書き留めておこうかと思う.

今ちょうどNHKで「もし高校野球のマネージャーがドラッカーのマネジメントを読んだら」のアニメ版が放映されているところだが、
作中では「真摯さ」というキーワードがストーリーの随所でクローズアップされている.
真摯さとは、目の前の物事に真剣に向きあう態度である、と言っていいと思う.
それは成人するまでの人間の発達段階においては親や先生の言いつけを素直に聞くという態度、ということになるだろうが、
社会的責任を持つ立場になっていくに従い、過去を受け入れ、他者からの批判を受け入れ、
現状を受け入れるという態度という形として複雑化していく.
しかし根本的な姿勢自体は決して高度化するわけではなく、
碇シンジの「逃げちゃダメだ」という思考と本質的に何ら変わりはないと思う.
従って真摯な態度は、子供にも実践可能な簡単なもののように思える.

しかし、この姿勢は一見単純に見えて実は本当に難しい.
特に絶望的な困難に直面し、代替的な選択肢が見えてしまっている場合には
眼前の状況に真摯に向き合うことから逃れてしまいたくなる欲望を抑えることが出来なくなる.
このような状況は、人間の成熟とともに視野が広がり代替選択肢が増えることで起こりやすくなる、
というのが大人にとって真摯な態度というものが困難であると考える所以である.
従って、例えば少年期にはつらい部活の練習を逃げずにやり抜くことができたのにも関わらず、
大人になって頑張り通せなくなる、なんていうことは大いにあり得ると思う.

では、代替選択肢に逃れるのを防ぐために人々はどのような行動をとるか、というと
真摯な態度を持たないとやっていけないような状況を作り、代替選択肢自体を不可能なものに追い込む.
例えば、家庭を作る、社会的に責任を負う立場に立つ、といった行動がそれに該当する.
すなわち社会とのつながりを形成する中で信用や人望などのかけがえのないものを失うことへの恐怖感が
真摯な態度を強化するという仕組みが働いているように思う.
従って真摯さの実践のためには社会的に開かれた存在であることが必要条件なのではないか、と考える.


さて、ここでSteve Jobsがスタンフォード大学の卒業式にてスピーチの締めくくりに述べた有名なフレーズを引用したい.

 "Stay hungry, stay foolish."

このフレーズはもともと、Whole Earth Catalogの背表紙に書かれていたメッセージであるとのことだが、
「空腹であれ、そして愚か者であれ」という意味の込められたこの短文に、
私自身も野心的な部分をくすぐられたことがあった.
周囲からFoolishだと、Idiotだと、Crazyだと評価されても動じない.自分のスタイルを貫く.
貪欲に、そして変わり者として、という生き方にはいまだに憧れを感じている.

しかし、「愚か者」としてあろうとする意識は時に社会から距離をおく、という態度で現れる可能性があるところに危険をはらんでいる.
特に「付和雷同」に代表される日本人の気質を考えると、
この国では社会から逸脱しようとするはみ出し者は集団から排他される可能性が高い.
そして爪弾きにあったものは自分の立場を正当化しようとますます社会から疎遠になり、
この負のループによって「愚か者」はますます真摯でなくなっていく.
"Stay hungry, stay foolish"を糧として生きるのも結構なことだが、
社会に対して正面から向き合う、という基本原則を順守しないと、
その生き方では真の「愚か者」に成り下がってしまう危険があると考える.

従っていい意味での「愚か者」になるためにはまずもって社会に対して真摯でなくてはならない.
すなわち最低限社会的に開かれた存在として振舞わなければならない、と思う.
守・破・離という言葉が表すように、"破"を経験する前段階には"守"のフェーズがある.
新たな道を開拓するためには、その分野に蓄積されている、
進化論的に築きあげられてきた流儀・作法・型を大切にすることがまずもって必要だ、ということだ.
スポーツは走りこみから、数学は計算から、人間関係は挨拶から.
こういった基本的な"型"をステップとすることがその先の領域へ行くための第1歩なのだ.
スラムダンクのバスケの素人桜木、ドラゴンボールの下級サイヤ人悟空が作品中で見せる努力のような、
まさに地道とも言える営みの先に新たな道は見出されていく.


まとめると、我々は自分自身が社会に開かれた存在としてあろう、という意識を持つことによって
真摯な態度を体現することができ、新たな道はその態度の先に拓かれている.
「正直であれ」というのは言うは易く、行うは難しだと思うが、
社会に対しクローズドな態度を徐々に排除していくことによって実直に体現していきたいと思っている.

"Stay hungry, stay foolish, and be honest."